若手教育に注力する日清紡マイクロデバイス。半導体技術者検定で知識の基礎固めを。【潜入!となりのカンパニー】
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【連載】潜入!となりのカンパニー
社内の教育制度に資格・検定を活用している注目の企業・団体にインタビュー。独自の社内ルールや企業風土を伺います。
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今回は、一般社団法人 パワーデバイス・イネーブリング協会主催の「半導体技術者検定」を新入社員教育に活用している日清紡マイクロデバイス株式会社 長崎テクニカルセンター (以下、日清紡マイクロデバイス)で人材教育を担当する江頭純二さん、そして3級に合格した3名の新入社員にお話を伺いました。
お話を伺ったのはこの方
江頭純二さん
日清紡マイクロデバイス株式会社
電子デバイス事業統括本部 開発本部 テスト開発部
長崎テクニカルセンター 課長代理
「半導体技術者検定」とは
日本の半導体の復権。その一翼を担う日清紡マイクロデバイス
――日清紡マイクロデバイスではどのような事業を展開していますか?
日清紡マイクロデバイスは半導体や電子機器の製造会社です。
テレビCMでもおなじみの日清紡グループの1社で、日清紡グループ内の新日本無線(株)とリコー電子デバイス(株)の2つの企業が統合する形で2022年1月に設立されました。
事業内容については、半導体製造を含む電子デバイス製品事業と、マイクロ波製品事業の2つがあります。
マイクロ波製品の例を挙げるなら、衛星通信に使用されるような通信機や、気象レーダー・航空管制レーダーに使用される発振器などでしょうか。
一方で、近年の車は障害物が近づくと警告音がしますよね。障害物の接近を察知するセンサーが発した微弱な信号を、大きく扱いやすい信号にするのが「オペアンプ」と呼ばれる半導体で、こちらは電子デバイス製品事業の主要な製品の1つとなっています。
――なるほど。日本各地や国外にも事業所がある中で、長崎テクニカルセンターではどんなことをしていますか?
長崎テクニカルセンターは日清紡マイクロデバイスの中にある2つの事業のうち、半導体などを製造する電子デバイス製品事業の開発本部に属しています。開発本部といっても、その中には設計、開発などさまざまな業務を担当する部署がありますが、私たちはテスト開発部でテストエンジニアを育成しています。
テスト開発部は半導体の製品そのものを開発するのではなく、不良品を探すためのシステム開発を専門にする部です。
車などに使用されている半導体がきちんと作動しなければ命にかかわることもありますよね。そういったことがないように製品を検査する仕組み(=電気的特性検査用テストシステム)の設計開発をしているんです。そしてこのシステムを作るのがテストエンジニアと呼ばれる技術者で、私たちはその育成を担っています。
――1つの事業所をあげて人材育成を担うということは、それほど半導体業界が盛り上がっているということでしょうか?
そうですね。近年はかなり盛り上がっているのではないでしょうか。
1980年代、日本の半導体が世界シェアの5割を占めるなど日本は「半導体大国」の名を欲しいままにしていました。ただ、そこからは安い海外製品の登場や技術力の流出などにより、2019年になると世界シェアは1割まで低迷。国を挙げて半導体事業に注力する台湾や韓国、アメリカとは大きな差がついてしまったんです。
しかし、ここ最近の半導体は車に使われることが増えて品質面が重視されている上、一時期の半導体不足を受けて安定供給を目指す潮流が強くなっています。このような背景から徐々に国内での半導体生産に活気が戻ってきているようで、経済産業省からも、2021年6月に「半導体・デジタル産業戦略」が公表されました。
特に九州にはさまざまな企業の半導体工場ができていて、この数年の間にもTSMCという海外メーカーが2024年の夏に数千人規模の大きな工場を熊本に作るそうですし、長崎県内ではソニーや京セラの新工場も予定されていると聞きます。
若い世代をいつか世界一の半導体技術者に。
――低迷期を経て半導体業界が盛り上がっているということは、人材の確保が課題になりそうですが……。
そうなんです。少し前までは人材の県外流失が問題になっていたのですが、九州に次々と工場ができている今はまさに人材の取り合いですね。
この長崎テクニカルセンターも県内で優秀な人材を確保・育成・強化することを目的に県からの誘致を受け、2年前に創設されました。これまではほとんど大卒者を採用していたところを、長崎テクニカルセンターでは工業高校卒や高専卒の優秀な人材を採用して育てていくという方針を取り入れています。
今はまだセンター自体が駆け出しという状態ですが、「長崎から日本の半導体事業を担っていけるような世界レベルの技術者を育てたい」という想いで工業系の高校や高専と連携したり、学生の工場見学を行ったりと、産学官が協力して人材の育成に力を入れているところです。
――工業高校や高専を卒業しているということは、新入社員のみなさんは半導体についての知識があるのでしょうか?
いえ。工業系の勉強をしていたとはいえ、半導体についてしっかり学ぶのは初めてという新入社員がほとんどです。
基本的には入社後、埼玉県・ふじみ野市の事業所で集合教育を2週間ほど行い、会社や社会人生活の基本的なところを学びます。それから長崎テクニカルセンターにて、座学研修や軽いOJTが始まり、7~8カ月をかけて現場に送り出されます。
――7~8カ月も研修をするなんて手厚いですね! 具体的に行っているカリキュラムを教えてください。
半導体事業は業務が広範囲ですぐ実務ができるわけではないので、時間をかけて研修を行い、基礎知識を習得してもらうんです。
長崎テクニカルセンターに戻ってからは、まず5月に佐賀の工場見学に行き、半導体の組み立て工程について研修を受けます。その後、5月中旬からは半導体技術者検定のテキストで本格的に半導体やテスト開発に関わる内容を学び、7月以降にOJTに近い形で業務に慣れていく流れです。
OJTで実力が付いたら実務に入っていきますが、その前に研修の集大成として課されるのが「模擬立ち上げ」という、アウトプットの作業。
これは既に稼働しているシステムと同じものを自分の力で作ってみる、というものです。ここで開発からデータの検証まで、テスト開発の一連の流れを経験してもらいます。
他にも新人と中堅社員がペアになり1年間活動する「ペアリーダー制」を取り入れていて、新人育成はもちろん、中堅の成長にも繋がるので一石二鳥なんです。
知識の基礎固めに「半導体技術者検定」が欠かせなかったワケ。
――ここまで熱心に新卒社員の教育を行う中で、「半導体技術者検定」を研修ツールとして選んだ決め手は何だったのでしょうか?
一番の決め手は公式テキスト。
半導体の設計や製造だけを学ぶならば他にもテキストや試験があるのですが、半導体のテスト開発についても学べるテキストはなかなか無いんです。
我々はテストエンジニアなのでテストや品質管理について詳細で体系的なものが欲しい。このテキストはそのニーズにピッタリでした。
――3級とはいえ、合格はなかなか難しいのではないでしょうか?
やはり、高校や高専を卒業してすぐの新入社員には少し難しいと思います。
昨年は11月の試験に合わせて逆算し、半年以上をかけてひと月に公式テキスト1章分を進めていくスケジュールを組みました。
最初はテキストを読んでわからない単語を調べるなど理解を深めるところから始めます。
それから数名ずつグループになって学んだ内容の資料を作成し、先輩と同期に発表。このときに質問をし合ったりアドバイスをしたりしながら、最終的にはテキスト一冊分を解説した資料を仕上げていくんです。
発表のほかにもテキストから演習問題を作成し、テストも行います。座学ではなくアウトプット型の学習にしたことで理解がより深まったという声も。昨年は12名が3級を受験し、最終的には全員合格することができました。
「学びは生きる」という実体験が若手社員を育てる
――人材教育のご担当者様の目線で感じた効果などはありましたか?
もちろん業務に必要な基礎知識を身に付けるという面では十分な効果がありました。それに加えて自己啓発といいますか、学びの習慣を保つという意味でもいい機会になったと思っています。
工業高校では就職のために資格や検定を推奨しているのですが、社会人になるとなかなかその習慣が続かないものです。
入社後すぐに「半導体技術者検定」にチャレンジしてもらったことで、学生時代の学び習慣が途切れることなく、研修後も各自がさまざまな資格にチャレンジしています。
また、半導体技術者検定で学んだことが実務に生きたという経験も、他の資格に意欲的にチャレンジする大きな要因になっているようです。
「半導体技術者検定」を受けたテスト開発部の若手社員にも検定の印象や、学習方法、現在の業務で活かせている点や今後の展望などを伺いました。
戸水秋陸さん(高専卒・2022年入社)
小川 空さん(工業高校卒・2021年入社)
永田陸人さん(工業高校卒・2022年入社)
いかがでしたか?
今後、より盛り上がりを見せそうな日本の半導体産業。技術の向上や生産体制の構築はもちろん、半導体産業の未来を担う若手世代を世界で活躍できる技術者に育てることもまた大きな課題です。
「半導体に興味がある」「将来は半導体業界に従事したい」という若手の方はもちろん、「半導体業界で若手を育てたい」という教育担当者のみなさまも、「半導体技術者検定」をチェックしてみてはいかがでしょうか。
企業情報
社名:日清紡マイクロデバイス株式会社
創立:1959年9月8日
従業員数:1,921名(単体)※2022年12月末日
主要営業品目:電子デバイス製品、マイクロ波製品
コーポレートサイトはこちら
文=池田裕美