「やり切った」と言えるまで、不安を潰し続けた。柔道金メダリスト角田夏実が実践する最強のネガティブシミュレーション術
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パリ五輪柔道女子48kg級で掴んだ金メダルを、当時のコーチ、今井 優子さん(右)の首にかけ、共に笑顔を見せる角田選手。
パリ五輪柔道女子48kg級で金メダルを獲得した角田 夏実さん。畳の上で見せる鬼気迫る表情と、冷静沈着な試合運びからは、圧倒的な強さが感じられる。
しかし、その素顔は意外にも「極度の心配性」だという。
「実は、すごく怖がりなんです。試合前は『負けたらどうしよう』という不安でいっぱいになるし、自分に自信が持てなくて」(角田 夏実さん。以下同)。
そんな彼女が、なぜ大一番で揺るぎない強さを発揮できるのか。その秘密は、徹底したデータの活用と、あえて最悪の事態を想定する「ネガティブシミュレーション」にあった。
【トップアスリートに学ぶ「強さ」の理由|柔道選手編】
現状を打破し、新たな道を選び取る「決断力」。異分野の技術を貪欲に取り入れ、自らをアップデートし続ける「探究心」。そして、不安を自信に変える徹底した「準備力」。日本柔道史上最年長となる31歳11カ月で五輪を制した角田 夏実の実践知は、年齢や環境を言い訳にせず成長を続けるための最強の教科書だ。彼女の思考プロセスから、その揺るぎない「強さの正体」を学ぶ。
感覚に頼らず、データを味方につける
試合前の不安に打ち勝つために角田選手が取り入れているのが、徹底した「トレーニングの可視化」だ。
「どうすれば揺るぎない自信を持てるのか。そう考えたとき、トレーナーさんに依頼して、日々の取り組みをすべて数値化することに決めたんです。
心拍数の推移やウエイトの負荷、疲労からの回復率。それらを客観的なデータとして突き合わせるようにしました」。
高校2年生、インターハイで3位に入賞した際の1枚。後に世界を制する「徹底した備え」と「飽くなき向上心」は、すでにこの頃から彼女の根底に息づいていた。
感覚的に「頑張った」と思うだけでは、不安に飲み込まれてしまう。しかし、目の前に並ぶ客観的なデータは、自分が積み重ねてきた事実をはっきりと示してくれる。
「今の私には、これ以上できることはない。これだけやって負けたならしょうがない。そう思える状態になるまで、準備を重ねます。
データを見て『今の自分はこれだけ成長している』と認識できて、ようやくスタートラインに立てるんです」。
この「事実の積み重ね」は、学びの場でも大きな力を発揮する。解いた問題数や正答率の推移を可視化することは、試験直前の不安に襲われた際、何より自分を支えてくれる「根拠のある自信」へと変わるはずだ。
角田選手が実践する「ネガティブ」との向き合い方
前回の記事では、「大事な試合が終わったら旅行に行く!」と事前に決める角田流モチベーション維持術についても教えてくれた。
準備において角田選手がもう1つ大切にしているのが、「最悪のケース」を徹底的にシミュレーションすること。
「基本的に最悪の状況を想定します。『もし減量に失敗して体調を崩してしまったら?』『試合会場にウォーミングアップの場所がなかったら?』『先にポイントを取られてしまったら?』そういった、 考えられる嫌なことを全部リストアップするんです」。
成功のイメージを思い描くことが重要だと言われる中で、角田さんはあえて真逆のアプローチを取る。
「良いイメージだけ持っていると、何かトラブルが起きたときに『どうしよう……』とパニックになってしまう。でも、最悪の状況を考えておけば、『じゃあ、そうならないためにどうするか』『もしそうなったらどう対処するか』と、具体的な対策を考えられるんです」。
あらゆる事態を「想定内」と捉えることで、過酷な練習にも集中できるのだろう。
例えば、先にポイントを取られた場合を想定し、残りわずかな時間でも逆転できる決め技を磨くメニューを組む。アップ場所がなければ、1人でもできる静的な準備運動を用意しておく。すべてを具体的な「To Do」に落とし込むことが重要だという。
「不安要素をすべて潰して、すべての事態を『想定内』にして試合に挑む。これが私にとって一番の準備であり、心の安定剤なんです」。
パニックになったら「外の視点」を頼る
どれだけ準備を重ねても、試合本番では予期せぬことが起こりうる。そんなとき、角田選手が決めているルールがある。
「『なにかおかしい……』『パニックになりそうだな』と感じたら、コーチボックスを見るように決めています。コーチは私を客観視してくれていますから。
私が『どうしよう?』と合図を送ると、『落ち着け』『距離を取れ』とジェスチャーや言葉で返してくれる。それを見て、一度冷静になることができるんです」。
オフには一緒に旅行に行く程の仲。かつてのコーチ、今井 優子さん(右)と。
自分1人で抱え込まず、信頼できる相手の視点を借りる。これは日頃からのコミュニケーションがあってこそ可能になる。
「コーチとは練習から徹底的に意見をぶつけ合います。『なぜその練習が必要なのか』と。納得できないままこなす練習に、意味はありませんから。
そうやって互いの意図を深く理解し合っているからこそ、本番の極限状態でも、コーチの指示が迷いなくスッと入ってくるんです」。
指導者がいない独学であっても同じだろう。テキストの内容をただ鵜呑みにするのではなく、「なぜそうなるのか」と自分に問いかけ、腹落ちさせること。その繰り返しが、確かな実力を築いていく。
「慎重」であることは、決して弱さではない。不安だからこそ、誰よりも緻密に準備ができる。角田選手の金メダルは、その徹底した準備力がもたらした必然の結果だった。
この準備力は、合格というゴールを目指す学びビトの皆さんにとっても、最強の武器になるはずだ。
【この記事の連載】
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