「挫折」から学んだこと。工藤阿須加が語る、立ち止まる勇気
インタビュー #気になるあの人を深堀り この記事をあとで読む
女性で初めてエベレストに登頂した登山家の田部井 淳子さんの半生を元にした映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』。作中、主人公の多部 純子を支えた夫・正明の青年期を演じているのは、俳優の工藤 阿須加さん。
本作において、優秀なクライマーだった正明は、凍傷で足の指を失い、キャリアを断念した過去が。実は工藤さんも、高校時代に怪我でプロテニス選手になる夢を断念した経験が。どのように挫折を乗り越えたのか、そしてそこから何を学んだのか。工藤さんに話を聞きました。
プロテニスプレイヤーの夢を断念。挫折から救ってくれた父の言葉
そうですね。高校1年のときに肩を痛めて、ずっと目指していたプロテニス選手の夢を諦めました。
それまでの生活の中心がテニスだったので、突然その目標がなくなってしまって、何をすればいいのか分からなくなり、しばらくは毎日ぼんやり過ごしていたんです。
毎日テレビを見るばかりで無気力な僕に、母からは「何かしたら?」と言って発破をかけられていました。
しかし、そんな僕を見て、父はこう言ったんです。「いいじゃないか。人生立ち止まる時間があっても。若いうちの1、2年なんていくらでも取り返せるんだから」と。
――元プロ野球選手という厳しい世界で活躍されてきたお父様(工藤 公康さん)からのひとことが、挫折から立ち上がるきっかけに?
はい。その言葉を聞いたときは、号泣しました。もちろん、親には見られないように、隠れて(笑)。すごく厳しい父だったので、まさかそんなこと言うと思わなかったんです。
「立ち止まってもいい」と言われたことで、気持ちが一気に軽くなりました。焦って何かをしなきゃと思っていたけれど、「今は休んでいいんだ」と思えました。それから少しずつ、自分のペースで前を向けるようになったんです。
――お父様の言葉には、どんな想いを感じましたか?
父自身も、プロ野球の世界でずっとプレッシャーと戦ってきた人です。だからこそ、父は立ち止まる時間の大切さを誰よりも知っているのかもしれません。
「決断するのは自分」。迷いながらでも動くことで道は開ける
――立ち止まったあと、どのように前を向いていったのでしょう?
「とにかく今できることをやろう」と思うようになりました。肩を治しながら、できる範囲でテニスは続けていましたし、その過程で自分の視野も少しずつ広がっていったんです。大学のときに俳優になる決意をしましたが、そこに至るまでにはやっぱり迷いや葛藤もありました。
でも、最終的に決めるのは自分です。どれだけ人のせいにしても、舵を切るのは自分。責任を負うのも自分。だからこそ、ちゃんと「今」にフォーカスすることの大切さに気付けた気がします。
――挫折を糧にできたと。
そうですね。ただ、挫折したことを受け止め、すぐに前向きに捉えられる人は少ないと思います。大事なのは「焦らないこと」と「助けを求めること」なんじゃないかと。
僕も、立ち止まる時間があったからこそ、自分の足で歩く意味を学べた。今では、あの時期があったからこそ“挑戦に対して前向きでいられる自分”になれたんじゃないかと思えるようになりました。
「振り返ると、挫折も良い経験。無駄な経験なんてないと思います。でも、その当時はとても辛かったです。でも、父の言葉のおかげで今できることにフォーカスできるようになった。だから、あの怪我も結果的には良かったと思っています」。
苦しい経験を糧に歩みを進めてきた工藤さん。今も“挑戦する自分”を支えているのは、止まらない好奇心だそう。次回は、その源泉である「学ぶ力」に迫ります。
映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』
出演:
吉永小百合、佐藤浩市、天海祐希、のん、木村文乃、若葉竜也、工藤阿須加、茅島みずき
監督:阪本 順治
脚本:坂口 理子 音楽:安川 午朗
原案:田部井 淳子「人生、山あり“時々”谷あり」(潮出版社)
配給:キノフィルムズ
© 2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会
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撮影=小松 顕一郎
文=斎藤 香







