「ラベンダー=安眠」が全員に当てはまらない理由。プロが語るアロマを“使えるスキル”に変える方法
アパレルPRからの転身(第1回)、そしてアロマの科学的側面(第2回)について伺ってきた本連載。 最終回では、資格を取得した後にぶつかる「壁」の乗り越え方と、これからの時代に求められるアロマテラピーの役割について、元公益社団法人日本アロマ環境協会理事であり、アロマテラピーライフスタイリストの川野 菜穂さんに伺います。
資格取得の落とし穴。”教科書通り”が必ずしも正解ではない世界
――「資格・検定」のメディアを運営していると、読者の方から「資格は取ったけれど、その先をどう広げていいか分からない」「教科書通りにはできるけれど、応用がきかない」といった声をいただくことがあります。
すごく分かります。資格を取ったあとって、「ここからどう広げればいいの?」と立ち止まる方が本当に多いんです。そして、応用がきかないと感じる背景には、“教科書に書かれた正解を守らなきゃ”という思いが強すぎることが多いのでは。
そんな方には、私からは「知識を詰め込んだ先は、最後は自分の鼻を信じて」と伝えたい。 アロマの資格勉強では、たくさんのセオリーを学びます。でも、教科書に書いてあることが、目の前の人に必ずしも当てはまるとは限らないんです。
――どういうことでしょうか?
例えば、「寝る前にはラベンダー」という有名なセオリーがありますよね。でも、実は私、寝る前のアロマにラベンダーを焚くのは苦手なんです。
――そうなんですか? 就寝前にはラベンダーと、一般的にいわれていますよね。でも実は、私も他の匂いのほうが良いなと思っています(笑)。
意外と多いんですよね。どうしてそうなるかというと、アロマテラピー分野は、アロマの歴史が深い海外からの文献が入ってくることも多いからです。でも、欧米の方と日本人では、体格も体質も違う。体格が良くて血圧が高めの方には、ラベンダーの鎮静作用が効いてストンと眠れるかもしれません。でも、低血圧気味の方が嗅ぐと、血圧が下がりすぎて逆に重だるくなることだってあるんです。
――なるほど……! 「教科書通り」が必ずしも正解ではないんですね。
そうなんです。だから最後は「鼻」に聞いてほしい。最初は基礎知識として覚えることはとても大事ですが、「本に書いてあるから」ではなく、「自分が心地良いと感じるか」。日本人はミカンに「懐かしさ」や「安心感」といったイメージを抱いているからなのか、オレンジ精油を嗅ぐとリラックスする方が多いんです。教科書的な知識だと、オレンジは「活発的」な香りとされ、夜よりも朝に適しているとされているかなと思考が働くんですけどね。
つまり「教科書に書いてあるのが正解」という思い込みを捨てて、自分の感覚を信じること、そしてそれを伝えることが、応用力を持つプロに求められているんじゃないでしょうか。
「地域のアロマ担当」という未来の働き方
──自分の感覚を信じることで、使い方も広がっていきそうですね。これからの時代、アロマにはどんな役割が求められると思いますか?
私は高校生の時、イギリスにホームステイをしたのですが、そこでホストマザーが素敵な話をしてくれたんです。 「この街には、区画ごとに担当のアロマセラピストがいて、その人が地域の人の心と身体の健康を見ているのよ」って。
――地域のお医者さんのような存在ですね。
日本でも、そんな未来が作れるんじゃないかと思っています。特に高齢化社会において、アロマができることはたくさんあります。 以前、私の祖母が施設に入所していて、いよいよ最期が近いというとき、それまで禁じられていた病室でのアロマ活用を、少しならとお許し頂けたんです。朝は覚醒する香り、夜はリラックスする香りを漂わせて。 そうしたら、スタッフの方々が「川野さんのお部屋、いい匂いがする」って、頻繁に顔を出してくれるようになったんです。
――アロマの香りが人を引き寄せたんですね。
はい。アロマがきっかけで人が集まり、会話が生まれ、病室が明るい空気になった。そうしたら、祖母も穏やかな時間を長く過ごすことができたんです。香りがすべてだとは思いませんが、間違いなくあの場の空気を変えるきっかけにはなりました。
アロマは人と人を繋ぎ、孤独を防ぎ、寄り添う力がある。 「マッサージ」や「リラクゼーション」という枠を超えて、地域のケアや高齢化社会の課題解決にアロマを役立てていく。そんな仕事を、志ある資格取得者の方々と一緒に作っていけたらうれしいですね。
アロマは「本音」を映し出す鏡
――アロマがきっかけで、人が集まったり、会話が生まれたり……。いろんな可能性があるんですね。
そうなんです。「その人自身の本音」を引き出すのにも、アロマはすごくおススメです。
――本音ですか?
「少しの間休んでいた仕事を再開したいから、エネルギーが出る香りをください!」と言って来店されたお客様がいらっしゃいました。その方がいくつかの香りを嗅いでもらったのですが、その方が選んだのが、休息を促すような深いリラックスの香りだった、ということがあったんです。
――言葉と選んだ香りが違ったんですね。
頭では「頑張らなきゃ」と思っていても、本音(身体)は「休みたい」と叫んでいるということですよね。嗅覚は本能に直結しているので、嘘がつけない。 その香りをきっかけにお話を聞いてみると「実は、周りから”再開してほしい”と言われて、嬉しさからヤル気を無理やり出していただけで、自分としてはまだバリバリと働く時期ではないと思っているのかも」と、本音に気付き、自分の気持ちと向き合うキッカケになったとおっしゃってくれました。
今の気持ちを正直に俯瞰して見つめるのは難しくても、好きな香りは瞬時に忖度なく選べる。香りは、ご自身でも気づいていない「心の声」に気づかせてくれるツールでもあるんですよね。
アロマセラピストは、本能の「翻訳者」
――最後に、川野さんにとってアロマセラピストとはどんな仕事ですか?
私は「翻訳者」だと思っています。 今お話ししたように、香りは本能に直接届くので、その人が選んだ香りには「言葉にならない本音」が表れます。それを読み解いて、「今、あなたの身体はこう言っていますよ」と伝えてあげる。
――なるほど、本能からの声にならない声を言語化するんですね。
情報過多な現代社会で、みんな頭でっかちになりがちです。だからこそ、香りを通じて自分の本能の声を聞き、本質に向き合い、地に足をつけて立つお手伝いができればと思っています。
資格を取って、これからどうしようと迷っている方がいたら、ぜひその力を、自分や誰かを支えるために役立ててほしい。資格はゴールではなく、そこから世界を広げるための入り口。一緒にアロマのチカラで心地よい世界を創れたらうれしいです。
教科書を覚えるだけが「学び」ではない。自分の感覚を頼りに、香りをどう届け、誰のために役立てるのかを考えていく。その積み重ねが、資格を活かすカギになる。川野さんの言葉は、アロマだけでなく、資格を活かしたい全員にとって、立ち止まった時の指針になりそうです。
お話を伺ったのは……
この記事の連載
◆アパレルPRからアロマの道へ。キャリアチェンジの舞台裏
◆アロマは"癒しグッズ"じゃない? プロが教えるアロマの「実力」
◆アロマの知識を“使えるスキル”に変える方法……今回はコチラ
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文=堀池 沙知子





