「2年後に五輪に出る」ための決断。シーホース三河・シェーファー アヴィ幸樹に学ぶ、夢を叶える思考術
インタビュー #トップアスリートに学ぶ この記事をあとで読む
制限時間の中で最適解を導く「判断力」。 技術が無意識に出るまで反復する「継続力」。 そして、プレッシャーの中で結果を出す「実践力」。プロバスケ選手が日々磨いているこれらのスキルは、資格取得やスキルアップを目指す“まなびビト”も共通して獲得したい重要な要素だ。トップアスリートのアプローチからその極意を学ぶ。
B.LEAGUE屈指の名門・シーホース三河に所属し、日本代表として東京オリンピックの大舞台にも立ったシェーファー アヴィ幸樹選手。
身長206cmという恵まれた体格、日本代表という華やかな経歴を持つシェーファー選手だが、本格的にバスケットボールを始めたのは高校2年生からだという。多くのライバルが小・中学生時代から技術を磨く中、圧倒的な経験の差をどのように埋め、トップアスリートへの階段を駆け上がったのか。これまでの人生を振り返りつつ、プロとして第一線で活躍するための思考法について聞いた。
成長実感こそが、一番の原動力に
「なんでも聞いてください」とにこやかな笑顔で取材に応じてくれたシェーファー選手。
「高校2年生でバスケを始める」というのは、スポーツの世界ではかなり遅いスタートだ。実はそれまで、シェーファー選手はサッカー少年だった。
高校1年生の夏、家族とともに東京へ引っ越したシェーファー選手。当初はサッカーを続けていたが、そこで「成長の停滞」を感じていたという。
「いまいち成長を感じられない時期があって。誘われてバスケをするうちに、気付いたら夢中になっていました。自分の体格が活かせるし、自分が活躍してチームが勝つとやっぱりうれしい（笑）。それに、ゼロからのスタートだったので、毎日できるようになることが増えていく。その『成長の実感』が一番の原動力でした」（シェーファー選手、以下同）。
周囲との経験差を埋めるための練習はハードだったはずだ。しかし、彼はそれを「ツライ」とは感じなかったという。
「優先順位のTOPがバスケになっただけで、何かを我慢した感覚はありませんでした」。
停滞を感じていたサッカーから、活躍できる実感のあるバスケへ。その決断がなければ、今の彼はない。学びにおいても、停滞を感じたなら思い切って新しい挑戦をしてみる。それが、高いモチベーションで努力を継続させる秘訣なのかもしれない。
たった1年半でU18選出。米国名門大での「自分を追い込む」経験
驚くべきことに、バスケ転向からわずか1年半後の冬、シェーファー選手はU18日本代表候補に選出される。その後、ドイツでの国際大会で手応えを掴んだことが、彼の人生を大きく変えることになる。
「父がアメリカ人ということもあり、もともとアメリカの大学へ進学する予定でした。当初はバスケ目的ではなかったのですが、U18日本代表として海外の同世代と戦ってみて『自分も通用するかもしれない』と感じて。そこでプランを一変させて、『バスケでアメリカに行く』と決意しました」。
彼が進学したのは、ジョージア工科大学。学業面で全米屈指の難関校でありながら、バスケットボールでもNCAA（全米大学体育協会）のディビジョン1に所属する（※）名門だ。 しかも専攻は「物理学」。文武ともに全米最高峰の環境での両立は、想像を絶するものだった。
「バスケは午後に練習があることが多く、午前中に授業を詰め込むようにしていました。でも、物理学専攻は午後にラボ（実験）が入ることもあって。ラボが終わった後に練習とウエイトトレーニング、寮に戻って膨大な課題をこなしていると深夜。あまり寝れてなかったですね」。
勉強もバスケも、とにかく量をこなすことを重視したというシェーファー選手。「人生で一番ツライ時期だった」と言いつつも、自分を追い込む経験ができたことは、プロとして戦う今の自分の「基準」を引き上げてくれたと、肯定的に振り返る。
結果はもちろん大事だが、高い壁を越えるべく全力を尽くすというプロセスそのものが、後の人生において、何物にも代えがたい財産になるのだろう。
五輪から逆算し、名門大を離れて帰国を決断
過酷な環境で揉まれていた大学2年目。ここで大きな転機が訪れる。大学に身長213cmもある超大型のライバルが入部し、ポジションを奪われてしまったのだ。
当時のシェーファー選手には「2020年東京オリンピック出場」という明確な目標があった。
「彼がいる限り、僕はベンチにいることが多くなる。そうなった場合、オリンピックの選手選抜や、試合時にベストな状態で臨めるのか？ と考えたんです。目標であるオリンピックまでの期間の中で『どうやったら最大限に成長できるか』だけにフォーカスしたら、『卒業せずに、日本に帰る』という選択肢がベストだと判断しました」。
「ジョージア工科大の名簿に名前があるので、戻ろうと思えば戻れる。引退してから考えたい」とシェーファー選手。
両親や周囲に相談し、わずか3週間というスピードで大学休学と日本でのプロ転向を決断。名門大学のブランドよりも、目標達成のために「実戦の経験を積める環境」を選択した。
自分がどうありたいか、目標までに何が必要か。常にゴールから逆算して環境を選択し続ける。その決断力が、後のオリンピック出場という結果を引き寄せた。
勝てないなら「自分の役割」を徹底する
経験の浅い「後発組」としてスタートしたシェーファー選手。スキルや経験値で勝るライバルたちと渡り合うために、どのようなマインドで戦ってきたのか。
「始めたのが遅い分、経験で負けるのは、もうどうしようもないこと。そこで『ほかの選手よりシュートのバリエーションが少ない』『細かいボールハンドリング技術が足りない』と嘆いても意味がありません。時間は巻き戻せないので、自分の強みは何か、自分に足りないものは何かを考えて、自分なりの役割を見つけるしかない」。
できないことに目を向けるのではなく、チームにおける自分の「勝ち筋」を見つけること。
「自分が一番下手くそでも、一番走って、一番体を張って、泥臭いプレーをやり続ければ、試合に影響は出せる。自分の役割にフォーカスしてやり続けるというのは、バスケに限らず人生においても使える考え方だと思います」。
華やかな経歴の裏には、自身の現状を客観的に分析し、泥臭く役割を全うする「思考するアスリート」の姿があった。
目標から逆算し、自分の強みを出せるように集中する。シェーファー選手の思考プロセスは、資格取得や新しいスキル習得を目指す私たちに、「戦略的に努力すること」の大切さを教えてくれている。
次回は、シェーファー選手が「現代バスケは数学に近い」と語るデータ分析的思考と、いま気になっているという不動産分野の勉強について話を伺う。
お話を伺ったのは……
シェーファー アヴィ幸樹 選手
1998年生まれ。B1リーグ・シーホース三河所属。ポジションはセンター。アメリカ人の父親と日本人の母親を持つ。バスケを始めて約1 年でU18の日本代表に選出。その後アメリカのジョージア工科大学に進学し、勉強とバスケの両立に挑戦したが、東京で開催される五輪出場を最優先に考え、帰国を決意。2020年からはシーホース三河に所属し、インサイドの核として活躍している。
【INFORMATION】シェーファー選手のプレーを生で体感しよう！ 2025年を締めくくる、IGアリーナでの特別な2連戦
シーホース三河のホームゲームが、2025年7月にオープンしたばかりの最新アリーナ「IGアリーナ（名古屋市）」で開催されます。 対戦相手は、強豪・アルバルク東京。日本代表経験者も多数在籍する両チームの対戦は、コート上の駆け引きや思考戦など、学びのヒントが詰まった熱戦になること間違いなし！
日時： 2025年12月27日(土)、28日(日) 15:05 TIPOFF
会場： IGアリーナ（愛知県名古屋市北区名城1丁目2-22）
対戦相手： アルバルク東京
▼チケット購入・詳細はコチラ
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撮影＝宇高 尚弘
