需要急増の国家資格「救急救命士」。2つの取得ルートと意外な就職先とは?
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高齢化による救急搬送件数の増加、そして災害の多発という背景から、救急救命士(以下、救命士)の需要は年々高まっています。
救命士は「救急車での活動」というイメージが強いかもしれませんが、実際には消防署だけでなく、病院や自衛隊、海上保安庁、民間企業まで幅広い現場に従事。専門スキルをもつ救命士は、必要不可欠な存在として活躍の場を広げています。
そんな救命士の活動が注目されるきっかけの1つとなったのが、俳優の鈴木 亮平さん主演で劇場版も公開された人気ドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』。同作にも登場し、近年ますます注目を集めている救命士について、本記事では、必要な資格や主な学びのルート、学習内容、さらに活躍の場までを分かりやすくご紹介します。
救急救命士とは?
救命士は、厚生労働大臣の免許を受けた国家資格を持つ医療従事者のこと。傷病者を医療機関に搬送するまでの間に、医師の指示を受けながら救急車や救急現場で救急救命処置を行う専門家として、1991年に救急救命士法により制度化されました。
その主要な活躍の場は、全国の消防署に所属し、救急車へ乗務するケースが一般的。しかし、その高度な知識とスキルは、病院や自衛隊、海上保安庁、警察組織、民間救急会社、警備会社など、高度な専門性を必要とする幅広い領域で求められています。
特に病院での需要は高まっており、医師&看護師不足を補う存在として、救命士の役割は非常に重要に。医師の指示のもとで特定行為を実施できる救命士は、救急外来や集中治療室(ICU)などで看護師と連携し、医療補助を担うことが可能なため、医療体制の維持に大きく貢献しています。
救急救命士になるには?
救命士になるには、年に1回、3月に実施される国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を取得する必要があります。受験資格を得るルートは大きく分けて以下の2つ。
【「救急救命士」試験の受験資格を得るルート】
①大学や専門学校などの養成課程ルート
救命士養成課程のある大学や専門学校で2年以上学び、所定の課程を修了、卒業すると、受験資格が得られます。
②消防署勤務ルート
消防官として働きながら資格取得を目指すルートです。消防官として勤務(消防官採用試験に合格する必要アリ)し、5年以上または2,000時間以上の救急業務に従事した後、救命士養成所で6カ月以上学ぶことで受験資格を得られます。救命士と消防官の違いは、医療行為の可否であり、救命士は医師の指示のもとで高度な救急救命処置を行うことが可能です。
救命士育成カリキュラムでは何を学ぶ?
「①大学や専門学校などの養成課程ルート」では、基礎医学から救急医療に必要な専門知識までを学びます。
【「①大学や専門学校などの養成課程ルート」で学ぶ内容】
・基礎医学:解剖学や生理学、病理学など解剖学、生理学、病理学、薬理学など、人体の構造と機能、疾患発生のメカニズムに関する基盤知識。
・臨床医学:内科・外科・小児科・産科・精神科など、各科で起こりうる疾患の病態や、救急現場での具体的な対処法。
・救急救命処置実習: 外傷や熱傷、中毒、ショックなどあらゆる病態への初期対応、心肺蘇生法(CPR)や除細動、さらに災害発生時におけるトリアージや対応など、救急現場での実技。
・臨地実習:病院実習や救急車同乗で現場経験を積み、シミュレーションで緊急時の対応を訓練。
「救急救命士」試験の内容と合格率は?
国家試験は年に1回、例年3月上旬に実施され、北海道、東京都、愛知県、大阪府、福岡県の5カ所で受験が可能。受験料は、30,300円です。
試験は筆記のみで、マークシート方式で行われます。出題範囲は、養成課程で学ぶ基礎医学や臨床救急医学に関する内容が中心で、臨床救急医学総論の他、内因性疾患や外因性疾患、環境障害など具体的な各論分野まで。患者搬送や救急処置など救命士として必要な知識を総合的に評価する形式です。
合格率は直近の試験(第48回、2025年3月9日実施)で約94.4%となっており、合格者のうち女性は9.8%を占めています。
救命士の就職先って?
かつて救命士の役割は、救急現場から医療機関に傷病者を搬送するまでの処置に限られていました。
しかし、2021年の救急救命士法改正によって、病院内でも医師の指示のもと薬剤投与などの特定行為が可能に。これにより、救命士は病院前だけでなく院内でも力を発揮できるようになり、キャリアの選択肢が大きく広がっています。
【救命士が活躍する場】
①消防署
消防署に勤務している救命士は全体の約7割。消防庁の運用基準により、救急隊は原則3名体制で、そのうち少なくとも1名は救命士が配置される必要があるため、安定した需要のある職場といえます。
②病院
2021年に救急救命士法が改正され、医師の指示のもと、救命士が病院内で救命処置を行えるようになったことを受けて、救急病院や救命救急センターで活躍する救命士が増えつつあります。病院で働く救命士は歴史が浅いこともあり、後輩など後進の育成や教育体制の整備が求められることも。
また、医師や看護師、薬剤師など他の職種のスタッフとの連携が求められるため、コミュニケーション能力やときには一歩引いて全体を見る冷静さが求められます。
③自衛隊・海上保安庁・警察
・自衛隊での救命士は傷病者の第一線救護という任務を担っているため、独自の養成機関を設け救命士を養成。
・海上保安庁に所属する救命士は、海での災害や事故で発生した傷病者を医療機関等へ搬送するまでの間、容態に応じた適切な救急救命処置を実施。海上では、海上保安庁の船舶が代わりに救急車の役割を担います。ときには沈没した船からの救助という業務も発生するため、「潜水士」の資格を有している救命士も。また、ヘリコプターから吊り上げによる救助を行う機動救難士の半分程は「救急救命士」の資格を有しています。
・警察に所属する救命士は、事件や事故現場で傷病者の救護を担当。
④民間企業
高齢化社会において需要が高まる介護タクシーの乗務員として勤務する救命士も。民間の救急サービスやイベント、エンターテイメント施設などで活動の場は多岐にわたります。
「救急救命士」は、自らの専門性を活かし多様なキャリアを描ける国家資格。消防署だけでなく病院や民間企業など、その専門スキルはますます求められていくことでしょう。救急医療という専門性の高い領域で人の命を救うという大きな目標に向け、学びの一歩を踏み出してみませんか。
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文=堀池 沙知子