日本の資格・検定|学びのメディア

読みもの

水族館で働く獣医師の舞台裏!多様な命を支えるプロフェッショナルの仕事とは?【しかくとはたらく。】

インタビュー

水族館で働く獣医師の舞台裏!多様な命を支えるプロフェッショナルの仕事とは?【しかくとはたらく。】

【しかくとはたらく。】
資格を活かして働く人を紹介する企画。資格取得のきっかけから勉強法、現在の仕事内容に至るまで深堀りしていく。業界裏話も盛りだくさん!

獣医師の働き先は多岐にわたり、動物病院や研究機関、動物用医薬品関連企業、動物保護団体など、活躍の場は非常に広い。

今回は、約350種もの生きものが暮らす水族館「マクセル アクアパーク品川」で、獣医師として活躍する働きビトにインタビュー。

日々動物たちに向き合い、真摯に業務に従事する姿は必見。なぜ水族館で働きたいと思ったのか、「獣医師」免許を取得するに至った経緯なども伺った。

お話を伺ったのは……

渡邊 文乃さん
1989年生まれ、静岡県出身。「マクセル アクアパーク品川」に獣医師として常勤。飼育されている哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類の治療や予防に努める。大学時代は獣医学部で学び、2015年に「獣医師」免許取得。別職を経て「マクセル アクアパーク品川」に就職し、現在7年目。

「多種多様な動物が暮らす水族館は夢のような職場です」

――水族館の獣医師の仕事は、主にどんな内容なのでしょうか?

元気なペンギンたち。今日も愛らしい姿で来園者を癒している。

「マクセル アクアパーク品川」には、イルカやオットセイ、アザラシ、コツメカワウソなどの哺乳類をはじめ、ペンギンなどの鳥類、イグアナなどの爬虫類、カエルなどの両生類、魚類など多様な動物が暮らしているのですが、獣医師は私のみの1名体制で展示動物の健康管理を行っています。

うとうとお昼寝中のコツメカワウソ。

動物病院のように治療がメインというより、水族館で暮らす生きものの日々の健康を支え、病気を予防し、繁殖に貢献するのが主な仕事。

そのため定期的な採血や便検査、尿検査、呼気検査などの健康診断の他、メスの卵巣エコーを実施し、卵胞の発育を観察するなどしています。

1日の大まかな流れは、午前中に食事前の動物たちの血液や便を採取し、午後にかけて検査、そして夕方にカルテを更新というものです。病気や体調の悪そうな動物がいる場合は、必要があれば治療や予防といったイレギュラーな対応も行うことも。

――獣医師というと、犬や猫など哺乳類を診察するイメージがありますが、水族館だと幅広いのですね。仕事のやりがいは?

イルカのエコー検査の様子。

通常の動物病院などでは接することのできない生きものと間近で関われるのは、緊張感もありますが、とてもワクワクします。野生動物なので、まだ解明されていない部分も多いですが、飼育や治療を通して新しい発見が得られるのも水族館の獣医師ならでは。

また日々の業務の中で、大学時代に習った教科書の内容や論文で見た症例を目の当たりにすることも多々あり、勉強してきたことが実務にダイレクトに繋がっていることにもやりがいを感じています。

――獣医師として働いてきた4年間で、印象に残っている出来事を教えてください。

いろいろあるのですが、ノコギリエイを他館から輸送したときでしょうか。

「マクセル アクアパーク品川」で展示されることになる、ノコギリエイの仲間「ラージトゥースソーフィッシュ」。貴重な生きものということもあり、輸送時にはとても緊張しました。

搬入前、麻酔をかけ、血液検査や生殖器のエコー等を実施したのですが、これほど大型の魚類へ麻酔をかけた経験がなく、薬剤がなかなか効かなかったんです。

焦りましたが、30分程で無事に効かせることができ、ノコギリエイを暴れさせることなく、安全に搬入ができました。

――それは貴重な体験ですね。獣医師として働く現在も、勉強などはされているのでしょうか?

はい、動物たちが健康に暮らしていくために、日々の勉強は欠かせません。

学会や勉強会に参加するのはもちろんのこと、エキゾチックアニマルを診察している動物病院を見学させていただいたりと自己研鑽に努めています。

獣医師への夢を叶える道のりは?

――獣医師になりたいと思ったきっかけは?

小さい頃から魚が好きで、魚類の医師になりたいと思っていました。

大学進学時に、海洋学部と獣医学部で迷いましたが、勉学の先に「獣医師」免許を取れる可能性のある獣医学部に進学。大学時代は魚病の病態を研究していました。

人気のイルカショーで元気な姿を見られる陰には、獣医師の活躍がある。

――免許取得を見据えて進学されたのですね。実際に取得したのはいつですか?

卒業を間近に控えた、大学6年生の3月です。

「獣医師」試験を見据えて、大学1年生の頃から、日々しっかり勉強することを心掛けていましたので、「獣医師」試験のために苦労した、という感覚はありません。

コツコツと積み重ねてきたものが実力としてついていれば、合格できると思います。ちなみに、「獣医師」試験の合格率は8割程度だそうです。

――「獣医師」免許取得にあたり、苦労したことがあれば教えてください。

とにかく「獣医師」試験は網羅すべき動物の種類が多く、その種差を覚えるのにとても苦労しました。解剖学的構造の理解や血液の正常値、良く発生する病気、使って良い薬とダメな薬……など、動物ごとの特徴を理解するのは膨大な時間がかかりました。

――数ある就職先の中から、狭き門といわれる水族館を選んだのは?

確かに、「水族館への就職は狭き門」だと大学の授業でも言われる程に難しい。

大学によってさまざまですが、私の通っていた大学の獣医学部の就職先は、6~7割が犬や猫を診る動物病院、3割が公務員、その他が牛や馬など大動物の診察する牧場関係で、製薬会社に行く人もいました。

水族館に就職する人は、学部内で年に1、2人だそう。

私は海の生きものが大好きで、その素晴らしさを発信できるのは水族館以外に考えられなかったからです。

――今後、挑戦してみたいことは?

「マクセル アクアパーク品川」では世界唯一の展示となる、ノコギリエイ種のなかでも希少なドワーフソーフィッシュを飼育しているのですが、その繁殖に挑戦したいです。これが成功すれば世界初。想像するとワクワクします(笑)。 


多種多様な海の生きものの健康を支える水族館の獣医師という職業は、確かに狭き門ではあるが、その分やりがいも大きい。渡邊さんの具体的な仕事内容は、水族館で働きたい人にとって参考になりそうだ。

DATA

マクセル アクアパーク品川
東京都港区高輪4-10-30(品川プリンスホテル内)
03-5421-1111(音声ガイダンス)
https://www.aqua-park.jp

撮影=梁瀬 岳志
文=鈴木 希


記事を保存するにはログインまたは会員登録が必要です

新着記事一覧へ

人気記事ランキング

関連記事