広瀬アリス「今はしゃがんでる時期なんだな」――学びが上手くいかない日に思い出したいこと
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映画『沖晴くんの涙を殺して』で、余命宣告を受けた音楽教師、踊場 京香を演じている広瀬 アリスさん。
喜び以外の感情を失った不思議な高校生との交流を通して、自らの命の期限と向き合う京香。日常にあるさまざまな感情や、生きること、を見つめていく物語だ。
そんな京香を演じるために、広瀬さんはどのように役と向き合ったのだろう。話を聞いていくと、限られた時間のなかで新しいことを身につける工夫や、思うようにいかない時期との付き合い方など、学び続ける人にも通じるヒントが見えてきた。
「無理です!」から始まったピアノ。触れられない日も、感覚を切らさない
まず伺ったのは、音楽教師を演じるうえで取り組んだピアノについて。これまで楽器に触れた経験がなかった広瀬さんは、撮影の2〜3カ月前から、他の仕事と並行して猛特訓を始めたという。
「ピアノの弾き方から教わったのですが、『指に力を入れないで弾く』とアドバイスを受けても、『どういう状態? 想像できない……』と戸惑うところからのスタートでした(笑)」(広瀬さん。以下同)。
楽器は未経験ながらも、短期間で音楽教師として自然に見える所作まで身につけなければならない。手探りで始まったその過程で、広瀬さんが大切にしたのは、ただ練習時間を増やすことではなかった。
「自宅用にキーボードを買おうかとも思ったのですが、鍵盤のタッチが変わってしまうのでやめました。それよりも、実際にレッスンに通い、作中と同じグランドピアノを弾く感覚を大切にしたいなと。
レッスンを受けられないときは、先生の手元を収めた動画を見て、音を聴きながら指の動きを覚え、動かす練習を。ピアノに触れられない日でも、頭と指で本物の感覚を忘れてしまわないよう意識していました」。
ピアノに触れられない日も、動画を見て指を動かしていた広瀬さん。その工夫は、日々の学びにも取り入れられそう。
何かを学び続けていると、予定どおり時間を取れない日もある。そんな日も、短い時間で復習するなど、その日にできることがあるかもしれない。
十分な時間が取れなくても、できる形で少しずつ続けていく。広瀬さんの練習の工夫は、忙しい毎日のなかで学びを続けるヒントになるのでは。
1人で進まなくてもいい。支えになった“戦友”の存在
ピアノの特訓を重ねて迎えた撮影現場で、広瀬さんの大きな支えとなったのが、京香が故郷の町で出会う不思議な高校生を演じた、俳優の木戸 大聖さん。
実は、広瀬さんが今作への出演を決めた大きな理由も、彼の存在だったという。
「以前テレビで木戸さんのお芝居を見たとき、長回しでの繊細な表情に衝撃を受けたんです。『今の10秒、めっちゃ良かった! この俳優さんは誰?』と。今回、すでに高校生役が木戸さんに決まっていると聞いて、『それならどんな役でも、絶対やりたい!』と即決しました」。
そうして実現した木戸さんとの共演。実年齢では約2歳差の2人だが、役ではなんと社会人と高校生。撮影に入ると、不思議と役柄そのままの距離感が生まれたという。
「彼が現場で常に役のままでいてくれたおかげで、自然と年齢差を感じられましたし、私の中に作品のテーマでもある母性も生まれたんです。
今回は猛暑のなかでの撮影で、めちゃくちゃ体力を削られたのですが、彼とは同志というか、戦友のような感覚で一緒に乗り切れました」。
新しいことに挑戦したり、ひとつの目標に向かって学び続けるとき、必ずしも1人だけで進む必要はない。同じ目標を持つ人や、相談できる人、刺激を与えてくれる人の存在が、前へ進む力になることもありそうだ。
猛暑の撮影を“戦友”とともに乗り越えた広瀬さん。誰かと同じ方向を向いて進むことの心強さもまた、長く学び続けるための支えの1つなのかもしれない。
「今はしゃがんでいるだけ」。伸び悩む時期を否定しない
自らの命の期限と向き合う京香を演じるなかで、広瀬さん自身も、怒りや悲しみといったネガティブな感情への捉え方が変わったという。
「最初に役の説明を受けたときは『悲しい運命を背負った役柄なんだな』と思いました。でも、いざ台本を読んでみると、1ミリも悲劇のヒロインじゃないんです。京香は自分の死について語るときほど、まるで日常会話のように淡々としていて。
京香を演じる前の私は、死とはもっと涙に溢れた劇的なものだと想像していました。でも実際はすごく日常と隣り合わせで、とても静かに訪れるものなんだなと。去っていく方の時間はそこで止まってしまっても、残された方たちには、どんなに悲しくてもまた『いつもの明日』がやってくるんですよね」。
どんなに悲しいことがあっても、日常は続いていく。そんな当たり前の事実に気付かされたことで、「生きている限り、落ち込むことや苦しい時期があるのも、ごく当たり前のことなんだ」と自然に受け入れられるようになったのだそう。
そうした気づきは、広瀬さん自身がネガティブな感情や、上手くいかない時期と向き合うときの考え方にも変化をもたらしたという。
「泣いたり怒ったりするネガティブな感情になるのもひっくるめて日常だし、それがないと人は全力で喜べません。
ジャンプするときだって、膝を曲げて一度しゃがんでから飛びますよね。だから落ち込むことがあっても、『あ、今はしゃがんでる時期なんだな。ここから一気にポーンと跳ね上がるために待つ時期なんだな』と思えるようになりました」。
何かを学び続けていれば、頑張っているのに手応えを感じられない、思うように時間を取れない、いったん立ち止まってしまう――そんなマイナスな感情が渦巻く時期もある。
けれど、そんな時間を自分は成長していない、と決めつける必要はない。「今はしゃがんでいる時期」と考えてみる。
すぐに成果が見えなくても、学びはそこで終わったわけではない。また跳ぶために、いったん膝を曲げているだけ。そんな捉え方は、長く学び続けるなかで立ち止まりそうになったときの、ひとつの心の置き場所を教えてくれる。
思うようにいかない時期も、次に跳ぶための時間。広瀬さんの言葉を思い出しながら、焦らず自分のペースで学びを続けていきたい。
後編では、広瀬さんならではの暗記術や、現在取り組んでいる英語のやり直し学習について聞く。
映画『沖晴くんの涙を殺して』
末期の乳がんで余命1年と宣告されて故郷に戻ってきた音楽教師の踊場京香(広瀬アリス)が、常に笑顔を絶やさない高校生・沖晴(木戸大聖)との交流をきっかけに自分自身と向き合っていく物語。人とのふれあいが心を動かし、生きることに前向きになっていく。命をテーマにしながらも悲壮感は感じさせず、登場人物たちの人生が心に沁みわたるように広がっていく感動作。
2026年10月2日(金)より全国ロードショー
監督:矢崎 仁司
原作:額賀 澪『沖晴くんの涙を殺して』(双葉文庫)
出演:広瀬 アリス、木戸 大聖、満島 真之介、北乃 きい、戸田 菜穂、根岸 季衣ほか
配給:彩プロ
©2026 額賀澪/双葉社「沖晴くんの涙を殺して」製作委員会
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撮影=佐野 美樹
取材=斎藤 香
文=学びのメディア『日本の資格・検定』編集部












