数学0点でもハマった!毎月受験する“簿記オタク”の講師に聞く、本当の面白さ
「簿記」が好きすぎて、合格した後も「日商簿記2級・3級」を毎月試験を受け続けている人がいます。専門学校や企業で簿記・会計を教える、フリーランス講師の柴本 玲菜さんです。
両級には、もちろん合格済み。それでも、ネット試験の導入開始時から、月1回のペースで受験を続けているのだというから、驚きです。
最新の出題傾向を把握し、受験者のサポートに役立てることが一番の目的。とはいえ、受験料は毎回自費です。それでも受け続けられるのは、試験を受けること自体に楽しさを感じているからなのだとか。
そんな柴本さんも、もともとは数字が苦手で、中学生の頃には数学のテストで0点を取ったことがあるとか。数字嫌いだった柴本さんは、なぜ毎月試験を受けるほど簿記に魅了されたのでしょうか。その理由を伺いました。
スタート時は「英語より何を言っているのか分からなかった」
柴本さんが初めて簿記を知ったのは、小学生の頃。銀行員だった父親から決算書を見せてもらい、「簿記は社会人として生きていくために必要な教養」と教えられたことがきっかけでした。とはいえ、当時から数字が好きだったわけではありません。
「算数も数学も大嫌いでした。塾で難しい問題をやらされていた反動もあったと思います。中学生の頃には、数学のテストで0点を取ったこともあります」(柴本さん。以下同)。
それでも、父親が見せてくれた決算書には興味を持ちました。数字というより、企業の活動が一つの資料にまとめられていることが、かっこよく見えたそう。将来は自分でビジネスをしたいと考えていた柴本さんは、商業高校へ進学。簿記部に入り、本格的に簿記を学び始めました。
しかし、最初に専門書を開いたときは、「英語より何を言っているのか分からない」と感じたと言います。
「当時は今ほど教材が充実していませんでしたし、難しい専門書しかありませんでした。でも、分かりにくいのは用語であって、その裏にある仕組みや構造が分かると、難しいという感覚がなくなったんです」。
決算書はミステリー小説と同じ。簿記の面白さは読み解き
こうした「仕組みを読み解く楽しさ」を知った柴本さんは、簿記の本質についてこう続けます。
「一般的に『数字が苦手だから、簿記には向いていない』と考える人は少なくありません。しかし『簿記』が得意な人は、必ずしも計算が速い人ではないんです。
簿記で大切なのは、計算力より国語力や読み取る力です。いま何が起きていて、何を記録すべきなのかを客観的に考える。数字を見て、それをどう使い、何を読み取るかが重要なんです」。
簿記の問題では、まず文章から取引の内容を読み取ります。そのうえで、「何が増えたのか」「なぜ増えたのか」を整理し、ルールに従って記録します。柴本さんにとって、この作業はミステリーを読み解く感覚に近いのだとか。
「決算書を読むのは、ミステリー小説と同じだと思っています。数字や言葉を手がかりに、企業で何が起きたのかを読み解いていく。単に計算するのではなく、その背景を考えるところが面白いんです」。
1円の狂いもなく数字が合う、パズルのような快感
簿記そのものの魅力について尋ねると、柴本さんは「パズルのような美しさ」だと教えてくれました。
「簿記では、左右(借方と貸方)の数字が1円たりとも狂いません。合わなければ、どこかで計算や考え方を間違えている。最後にピタッと合った瞬間は、パズルが完成したときのように気持ちいいんです」。
子どもの頃から、テトリスやぷよぷよなど、ブロックがきれいに揃うゲームが好きだった柴本さん。そこに感じていた美しさと、簿記の面白さには共通するものがあるといいます。
簿記では、企業で起きた出来事を「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」の5つに分類します。この簿記の基本となる5つの要素も、柴本さんには「収納ボックス」のように見えてきたのだとか。
「何かが起きたら、まず5つのうち、どの箱に入るのかを考える。置くべき場所を決めて、ルール通りにしまっていく感覚です。あるべきものが、あるべき場所に収まる。大掃除を終えた後のようなスッキリ感があります」。
数字を速く処理する計算競技ではなく、散らばった情報を読み取り、正しい場所へ整理するパズル。そう捉えると、簿記への印象も変わりそうです。
初心者は「動画」で簿記の感覚をつかもう
簿記の仕組みには面白さがある一方、専門用語が最初の壁になりやすいことは、柴本さん自身も経験しています。そのため、初めて簿記を学ぶ人には、参考書だけで理解しようとせず、まず動画を見てみることをおススメしています。
「参考書は、どうしても専門用語を正しく使う必要があるので、表現が硬くなります。最初はYouTubeなどの動画で、柔らかい説明を聞いたほうが感覚をつかみやすいと思います」。
例えば、「貸倒れ」という言葉。参考書の定義を読む前に、「貸したお金が返ってこなかったら困るよね。もらえなくなることを貸倒れって言うよ」と説明されたほうが、状況をイメージしやすくなります。まずは動画で全体像をつかみ、その後に参考書で正式な用語や定義を確認する。この順番なら、専門用語への抵抗も減らしやすいと教えてくれました。
毎回違う“キャラ”で試験に挑戦⁉ その理由は
柴本さんが毎月「簿記」を受験する一番の理由は、簿記を教える仕事への責任から。しかし、同じ試験をただ漫然と繰り返しているわけではありません。毎回、問題へのアプローチや自分の中の設定を変えているのだそう。
「今日は急いで勉強してきた受験者、次は専門家の立場、といった具合に、毎回違うキャラを演じています。答えは1つでも、そこに至る方法はいくつもある。その方法は、性格や、置かれている状況によって違うはず。今回はどう解こうかと考えるのが楽しいんです」。
満点を目指すゲームとしても楽しめるという柴本さん。見直しなしで一度で数字が合った瞬間は、楽しくて病みつきになるのだとか。
試験の最新動向を把握するという仕事上の目的に、自分なりの遊び方を加える。そうすることで、毎月の受験を最大限楽しむ。そんな柴本さんの姿勢に感嘆していると「やらなければならないことなら、楽しんだほうが得じゃないですか」と目の覚めるような言葉をくれました。
数学が苦手でも、数字が好きでなくても、簿記を楽しめないとは限りません。
謎解きが好きな人、パズルが完成した瞬間に快感を覚える人、散らばったものをきれいに整理するのが好きな人なら、意外なほど簿記にハマる可能性があると、柴本先生は語ってくれました。
「数字が苦手だから」と決めつけず、まずは動画などで、簿記の世界を気軽にのぞいてみてはいかがでしょうか。
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